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エピローグ(3) [ワンダと巨像]

いにしえの地への長い長い橋の柱に亀裂が走る。
祠と繋がっていた場所から、順々に青白い亀裂とともに橋が崩れていく。
橋の上では、エモンと従者達が全速力で馬を駆けている。生き残るために、馬をこの橋で潰すくらいの覚悟で必死に馬を急かす------

 少年を飲み込んだ泉のある祭壇の広間は、静まり返っていた。眩しいほどの竜巻も消えうせ、平穏な時間が流れている.....。永遠の眠りについた少女と、白い鳥たちと、穏やかな風....風が少女の身体を撫でると、いつかの夢のように少女が眩しげに目を覚ました。
 祭壇から身体を起こし、ここはどこだろう?と誰もいない広間を見渡している。やがて祭壇から降り、ここで何が起きていたのかを知ろうとするかのように、静かな広間をゆっくりと歩き出した。
 カツ、コッツンと何かアンバランスな物音に少女が振り返ると、左足を引きずりながらアグロがおぼつかない足どりで広間へと上がってきていた。立ち尽くす少女のそばまでアグロは歩みよると、少女に親しみの感情を込めて鼻を鳴らした。少女はこの黒馬の主をよく知っていた。痛ましい左足に気付きつつ、そのそばに少年がいないことにも触れずに、「おかえりなさい、よく戻ってきましたね」と囁くように優しくアグロの胸をそっとなでた。

 橋の上を駆け抜ける一団は、ようやく安全な向こう側まで全員揃って辿り着くことができた。
もはや訪れることが叶わなくなった、いにしえの地という孤立した世界を見渡しながらエモンは呟いた。
  「罪深く 哀れな者よ。 これでもう人が訪れることはない。
   もし 生きているものがいたとして、 この地で生きながらえることが出来るのなら
   いつか 報われる時が来るだろう 」
 そう一人言のように誰かに呟くと、エモンと従者たちはいにしえの地をあとにした。

 無言のまま少女がアグロの体を優しく、ずっと撫でていた。
まるで心の中でアグロと言葉を交わしているように。
 アグロがふいに頼りない足どりでゆっくりと広間の奥へ歩き出した。少女はそれを佇んだまま見つめていたが、そっとそれに少し遅れて崩れた何かを見渡しながらそれに続く。
 アグロが歩みを止めた場所は、少年が飲まれ、枯れた泉だった。
 少女が遅れて泉のそばまで来ると、生き物の声がした。枯れた泉の中を覗き込むと、角が生えた人間の姿をした赤ん坊が横たわっていた。少しの間立ち止まった少女だったが、その赤ん坊がアグロの主だと悟ったのか、慈愛の女神のようにそっと限りなく優しく抱き上げた。 その様子をつぶらな瞳で見届けたアグロは、再び思うように動かせない左足を引きずりながら少女を導いていく。
 赤ん坊を抱いたまま少女はアグロについていくと、無機質な祠の中にいるのを忘れてしまいそうな程、緑溢れる穏やかな庭園が広がっていた。

 そこには、森の中で聞こえるような小鳥のさえずり、優雅に舞う蝶、若い子鹿、可愛らしいリス...。
今まで一度も出会わなかった生き物達が、この庭園には存在していた。鮮やかな緑の中には、涼やかに流れる小川もある。この小さな生き物達が生きているこの場所ならば、少女たちも生きていくことができるだろう。

 死の運命から蘇った少女と、死の呪いから生まれ変わった少年。
完全に孤立した、けれども広大なこの地で、たくさんの命と共に永い時を刻んでゆくのだろう....。   



エピローグ(2) [ワンダと巨像]

少年の死をエモン達は押し黙ったまま見届けていた。辺りに安堵の空気が漂いそうになっていると、従者の一人が小さな悲鳴を上げた。視線を倒れている少年に向けると.......
少年を覆っていた影が沸きあがるように天井近くまで膨らみ、形を成していく。大きな角が二本ある巨大な黒い影が、エモン達を見下しながら言い放つ。
 「我が体を 十六に刻み 封印してきた人間どもめ..... 我が名は ドルミン。戦士の身体を借り 今  ここに蘇らん」
エモンは最悪の事態をすぐに悟り、従者たちに慌てて指示を出す。
 「手遅れになる前に 祠ごと封印するのだ!」

 ドルミンの影が巨大すぎて、エモン達がよく見えない。もう引き返せないところまで来てしまっていて、どうしたらいいのかわからなかった。エモン達に阻まれて叶えられなかった望み。ここまで試練を越えてきたのに報われない想い。それらを力いっぱいぶつけるように、エモンを狙って拳を床に叩きつけた。わずかなところで届かず、衝撃に倒れこむ人間たち。身体が思うように動かない。小さな人間たちは来た道を一目散に引き返していく。追いかけ拳を振り下ろしても狙いは定まらず、この身体では追いつくことさえ出来なかった。
 エモンは、広間の先の泉のある螺旋の坂を駆け上がり、脱出用の馬を準備するよう指示すると、いにしえの剣を手に呪文を籠めて、剣を泉へ放ると
 「鎮まれ!!」   と叫んだ。
剣が泉に落ちると、泉から眩しいほどの真っ白な光と巨大な竜巻が轟々と音をたてて巻き上がり、ドルミンの巨大な影を容赦なく吸い取っていく。天井まで届くほどの影は、みるみる小さくなり身体ごとズルズルと竜巻が現れた泉へと引きずられる。影の部分を全て吸い取られ、ワンダの身体のみになっても竜巻は止まず、床石にしがみついてもあまりの吸引に耐え切れずに転げ、泉の手前の階段に手をかけると身体が浮き上がるほどの威力だった。
 濁流に飲まれているような感覚、もはや掴んでいる手に感覚はない。この手を離してしまえば、すべてが終わってしまう。みっともないほど生にしがみついている自分。誰に許しを請えばいいのかさえわからないまま、救われたいと誰かに切に訴える。
 竜巻は終わらず、少年の腕力は限界を超え、段差からズルリと手が外れると、糸が切れた人形のように無抵抗に転がりながら泉に沈んでいった。



エピローグ(1) [ワンダと巨像]

馬が6騎、長い長い橋を渡っていく。
渡り切ったところで馬から降り、剣を抜き、ボウガンを構え警戒しながら祠の中へ侵入していった。
祭壇のある広間まで進んでいくと1人が声を上げた。
「エモン様」
術者エモンが呼ばれた方へ視線を向けると、最後の偶像が弾け跳んだ。エモンは愕然としつつも辺りの崩れ去っているほかの偶像に目をやりながら震えそうな声で呟いた。
「なんということだ.....」
呟いてから、ハッとしたように祭壇に横たわっている少女にきがついた。

ワンダは要塞のような巨像のそばで倒れていた。その身体は真っ白とも真っ黒とも見える光に満たされてゆき、不思議な力で宙に浮き上がっていった。

 エモンは少女の横に立ち、手を少女の顔に向けて呪文を唱えていた。何かを感じ取ったのか、ふいに詠唱を止め後ろの広間を見ると、いつもの場所にいつの間にか少年が倒れており、天井からいにしえの剣が降ってきて床に突き刺さった。言葉を失いそうになるも、起き上がろうとしている少年がワンダと分かるとエモンは何かに慄くように声を荒げた。
 「なんということだ。やはりお前か。  己が何をしたか わかっているのか。禁じられた地に踏み   入り、禁術まで使うとは!」
ゆっくりと起き上がったワンダの頭には小さな二本の角が生え、眼は巨像のように青い。ワンダの後ろには黒い影人達が現れ、付かず離れずで様子を伺っていた。
 「死者達にとり憑かれておるわ」
エモンが影人達を指して言い放つと、従者達ににじり寄ってくる少年を止めるよう指示を出す。ボウガンを持った一人が少年の左足を射抜いた。ワンダは痛みを堪えようとするもバランスを失って倒れこんでしまった。仰向けに倒れた少年にエモンはそのまま告げる。
 「忌み嫌われ生き長らえるより、今ここで葬ってやれ」
剣を持った男が倒れた少年の前に立ち、剣を突き刺した。酷い音が広間に響き渡る。
 ワンダは剣を受け止めるかのように黒い血を流しながら急所を外させていた。その黒い血に男は慄き後ずさる。剣は斜めにワンダの身体を貫通していて起き上がることなど出来るはずもないのに、ゆっくりと刺さった剣を押さえたまま身体を起こし、執念だけで祭壇へと足を引きずりながら進んでいく。もう少しのところまで来ているというのに、身体が重くて進めない。気持ちを飛ばすように少女へと手を伸ばすも届かない。自分に刺さっている剣を抜けば軽くなる気がして、残りわずかな力を振り絞って剣を引き抜いた。すると真っ黒な血が傷口から一気に噴出し、ワンダは全ての力を失って前のめりに倒れてしまった。今まで倒してきた巨像達のように、ワンダの身体を真っ黒い影が覆っていく.....それは真に少年の死を意味していた.....。



最後の巨像(3) [ワンダと巨像]

闇雲に上へ目指すのを止めて手の甲に留まり隙を見て腕をつたって駆け上がる。
左の二の腕にも青白いヒビがあり、それより先は光の腕輪があって肩まで進むことができなかった。ヒビに剣を立てると今度は右手が傷をうかがうように伸びてきたので右手にとびつく。左手のときと同じようにしつこく捻られる....休みなく動く右手に腕力がついていかない。少年は苛立ちを抑え切れずに剣を手の甲に突き立てた。黒い血さえ出た気配はないが、巨像はびっくりしたようで手の甲を上にしたままじっと少年を見つめている。おかげでギリギリのところで腕を休ませることができた。
 少しの間の休憩をはさんで再び捻り始める巨像。動きを少々止めただけでは、巨像の肩に乗ることはできない。右手の二の腕にはヒビは無く、代わりに先へは進めない光の腕輪が存在している。なんらかの方法でこの右手から巨像の肩にある体毛に飛びつきたいのだが.....。
 腕の痺れを感じて再び右手に剣を刺す。動きを止める巨像。手の甲に立ち、武器を弓に変えてたどり着きたい肩の体毛へと放ってみた。すると少年を乗せた右手が矢の刺さった肩へと伸びて行き、うまく着地することができた。
 ここまで辿り着けば、もう目指すのは巨像の頭頂部しかない。肩を回す揺れに耐えながら、しっかりと腕力を回復させ、勢いよく巨像の頭に飛び乗った。
 予想通りに青白い大きな紋様が頭頂部に浮き上がっている。精一杯力を籠めて紋様へ突き刺した。雷の轟きに負けないくらいの悲鳴とともに吹き出る巨像の真っ黒い返り血を浴びながら、しっかりと体毛を掴み、慎重に次の一撃を見舞う。最後なのだ、この巨像を仕留めれば願いが叶う。腕力の残り具合を見極めながら、要塞のような巨像に止めを刺した....。
 
 ついに願いが叶う.....あとは戻って少女の目覚める姿をこの目で見たい....。
 毎度のように湧き上がる黒い帯に貫かれることも、全く気にならなかった。
 一秒でも早く少女のいる祭壇の広間に行きたい。
 目を閉じ、少女を思い浮かべながら、そのまま少年は意識を失った。



最後の巨像(2) [ワンダと巨像]

数々の段差を登り、通路を抜けて上へ上へと進んでいく。
空はいつのまにか暗くなり、台風でもきているかのように激しい雷雨になっていた。
 登りつめた屋上の広間には、暗がりの中で天まで届きそうな巨大すぎる巨像が静かに少年を待っていた。遥か遠くにいる巨像は生きた要塞のようで、移動する気配はなく下半身はまさに建物と化していて、上半身は人の姿をしていた。両腕に光を帯びた腕輪をしていて、夜のような暗さの中で巨像の眼と腕輪だけが不気味に光り、雷の一瞬の明るさでその全体像が垣間見ることができた。

巨像の巨大さと、その足元までの距離の遠さに愕然としそうになる。とりあえず少し先にある人が3人ほど隠れることができるくらいの防壁まで進み、巨像を覗き見た。
 巨像には少年の姿がちゃんと認識されているようで、左手を少年に向けて攻撃準備態勢に入っているようだった。相手がどんな攻撃をしてくるのか、それを避けることが可能なのかもわからない以上、防壁を利用して先に進んでみるしかない。意を決して防壁から飛び出し駆け出す....しかしその安直な行動は一瞬にして打ち破られた。巨像の手から放たれた光弾は予想を遥かに超える速さと正確さで少年を打ち抜き、飛び出した防壁より後方に倒れこむまで容赦なく撃ち続けてきたのだ。
 殺される!と悟らされたとき、巨像の攻撃が止んだ。防壁より先が巨像の攻撃対象になることを身体でわかることができた。防壁の陰に身を潜め、傷を癒しながら近づく方法を探す。辺りを見渡すと防壁はいくつかあり、一番右の防壁の近くに防壁以外の建物らしきものが眼に留まった。巨像の光弾のタイミングを見計らいながらそこへ近づき、勢いよく飛び込んだ。
 そこは地下道になっていた。あまりの深さに足を痛めたが、お構い無しで駆け出した。一本道の通路の終着点は地上に繋がっていて、最初の防壁から少し進んだ次の防壁の位置に顔を出すことができた。その防壁を利用しながら、欲張らずに慎重に右へ右へと進む。また同じような遺跡の入り口があり、地下道を通って巨像までの距離を縮めていく.....。
 地下道から崖っぷちを渡り、さらに奥へと進んでいくと、ようやく、巨像の足元まで辿り着くことができた。まるで建物によじ登っていくかのように、一心に上へ上へと手を伸ばす。巨像に乗っていることを忘れそうになるくらい、数え切れない段差を登り背面にいるのか側面にいるのかも把握できないまま、とにかく上を目指した。
 どこまで登ったのか、建物とは違う壁に気がついた。そこより上に行くことはできず、黒いゴツゴツとした中に鈍い光を宿した壁。それをつたいながら、一周するような感覚で移動していくと、黒い壁が終わり体毛の中心に青白いヒビを見つけた。体毛を掴み剣を突き刺す。小さなうめき声のあと、痛みのもとを擦りにくるかのように、巨像の左手が近づいてきた。その左手の動きを見て、この場所が巨像の背中であることがわかった。ここより上へ進むことができない状況で左手が伸びてきたということは...結論を出すより早く近づいてきた左手に飛びついた。それにすぐ気がついたようで、巨像は少年を弄ぶかのように手を捻り力尽きて落下するのを楽しみにしているようだ。まるで天道虫を腕に乗せて上へと目指すその様を見て楽しむかのように。
 



最後の巨像(1) [ワンダと巨像]

黒いたくさんの影人たちに見つめられている。
少年の様子を見ているような、何かを待っているかのような.......。
広間の偶像が不思議な力で崩される。
少年が起き上がり、いつものように天窓を見上げるとドルミンの声が響いた。

....いよいよ最後の相手....
儀式は終焉を告げ お前の望みも叶うだろう
だが ここにきて邪魔者が入ろうとしている
時間は残り少ない...急ぐのだ.....

 少年のたったひとつの望みを阻止されるわけにはいかない。
 そのためだけに、ここまで頑張ってきたのだから。
アグロに乗って最後の巨像のもとへ急ぐ。邪魔者という存在が誰なのか、検討はついていた。自分が叶えようとしていることが、どんなことかもちゃんと分かっていた。それでも、少年は譲れなかった。例え自分の心臓を少女に与えることが、少女の目覚めになったとしても.......。

 広い草原の先に、巨大な門を見つけた。
門は固く閉ざされていて、手前に台座のような遺跡があり、そこへ門に開いた丸い穴から光が射していた。アグロに騎乗したまま光の中に立ち、何かに導かれるように剣を掲げ、剣から溢れる光を丸い穴へ返すと....門は静かに開き少年達をその先へと促した。
 門を抜け先へ進むと石碑が建っていた。最後の巨像との勝利と、少女の目覚めを静かな気持ちで祈った。
 その先の階段を登っていくと、壊れかけの橋がある高い高い崖に出た。少年一人で橋に乗ってみるも、向こう側へ渡るには少年の跳躍力では無理だ。他に渡る道はなく、崖の底は川になっているのがぼんやりと確認できただけだった。
 階段ギリギリまでさがり、アグロの首元を撫でてから騎乗する。.....これで最後になるから....いつも無茶させてごめんな。頼むよアグロ。 独り言のようにつぶやいてから、大きく息を吸ってアグロを走らせた。
 一気に加速して橋に飛び乗る......!そのはずみで着地したところから橋が崩れだした。それに立ち止まることなく次のジャンプまで全速でアグロを駆けさせた。
   長い跳躍........時間の流れがゆっくりに感じてしまうほどに。
鮮やかに跳んだアグロは見事に対崖に着地した.....が、そのとき着地した部分が砕けアグロと少年を乗せたまま傾いていく。必死に踏ん張り、登りきろうとするも傾き崩れていく床に抗えない。
 アグロが一瞬、上半身を持ち上げ前足を付くと同時に腰を跳ね上げた。騎乗していたワンダは崖の上に転がりながら到達することができた。驚くよりも先に端まで這い寄ってアグロの名を叫ぶ!
 主を無事に対崖まで運び切ったアグロは、崩れ落ちていく瓦礫といっしょに崖下の川へと転落していった......。
 
 何てことだ.....いつもいつも共にあって、助けてくれたアグロを失ってしまうなんて.....。この厳しい闘いもこれが最後だというのに、最後の最後でこんなことになるなんて.......。信じたくない。川に落ちたのなら、万が一にも生きていてくれるだろうか.....。アグロがいなければ、こちら側に渡ることは出来なかった。共に転落するところを助けてくれたアグロ。最後まで、僕を助けてくれて、巨像への道を切り開いてくれた.....。
 涙でぼやけたまま、崖下の川を見つめる。
無駄にはしない。アグロが齎してくれた巨像への道.....。必ず巨像を倒してくるよ。

 心に誓い、涙を拭ってワンダは先を目指す。
最後の巨像を倒し、望みを叶えるために.....!



15体目の巨像(2) [ワンダと巨像]

 ドルミンの声が聞こえる---隠された急所を探せと。....隠された?巨像の肩の上まで戻り腕を休ませながら思案する。
 この巨像は人型タイプでサポーターのように関節などところどころに、遺跡でできた装飾品を身につけている。体毛は頭から二の腕まで、山賊が何かの毛皮をかぶっているかのように生えていて、それ以外の場所はゴツゴツとした地肌と遺跡の腕輪だったりでしかない。つまり「隠す」ところなどないほど、特に無駄がないのだ。
 とりあえず背中を見るも紋様はない。左肩には肩当のような形の遺跡がついていて、そこから先へは難しそうだ。右肩の様子を見ていくと、二の腕のところに青白いヒビを見つけた。ためらうことなく剣を刺す。すると巨像は右手に持っていた鉈を取り落とし、その右手の手のひらに青白い光が浮き出ていた。隠された急所とは、鉈を握り締めた右手の中にあったのだ。
 手のひらまでは、体毛が生えていないため遺跡の腕輪から手を放して、すべり落ちて近づくしかなかった。手首の遺跡まで辿り着き軽く握っている手の中へ滑り込む...しかし、巨像はすぐに指を広げてしまい、手のひらにある紋様にダメージを与えることができずに地面に落ちてしまった。
 再び建物に登って屋上から巨像の肩へと飛び降りた。腕の力を考えるとできるだけ早くあの紋様まで辿り着かねば....。滑るように手首までうまく事を運び、手のひらの紋様部分にわずかでも体毛があることを信じて落下しながらも手を紋様に伸ばした.........。
 
 体毛は存在してくれていた。手のひらの中のどこからどこまであるのかもわからないほどの細かくてわずかな体毛だった。少年の腕の力もあとわずか...。この一撃にすべてを籠めるように剣を手のひらに突き刺した。
 そして、その一撃が巨像の命を止める最後の一手となったのだった。



15体目の巨像(1) [ワンダと巨像]

 残り2体に迫ってきていた。
胸がなんだか苦しい。緊張と一握りの不安と、ワクワクするような未来がすぐそこまで来ている。
いろんなものが混ざり合って、きちんと呼吸できない。
何度も深呼吸をしながら、巨像の元へと近づいていく.....。

 そこは大きな神殿のようだった。
単身乗り込み様子を伺いながら奥へと進んでいく。通路を抜けると両側に建物のある広い場所に出た。建物の4ヶ所にあと少しのところで手が届きそうな高さの場所を覚え、なんらかの方法でここから建物に登り上から巨像に飛びつくことを想像しながら広間の奥へと歩いていく。
 もう少しで最奥に着いてしまうというのに、巨像は現れない。そういえば、ドルミンが「谷に落ちた大男」と言っていたような....この奥がまさに谷になっているようにも思える。ともかくゆっくりと広間の端までじりじりと歩いていくと、突然下から何か大きな塊が広間の端に乗っかってきた。
 それを立ち止まってじっと見つめる。......これは、左の手?
 次に大きな鉈を握り締めた右手。そのあとすぐに巨大な上半身が見え、いとも簡単にひょいと全身を広間に乗せていた。

 これはまた....でかい。立ち上がった巨像の姿は、遠目で見ても脛までしか見えないほどだ。慌てて先ほど確認しておいた4ヶ所のひとつまで戻る。この巨像は大きな鉈を持ってはいるが、無闇に振り回すタイプではないようだ。時に足踏みをして蹴散らそうとするか、大きな足裏で踏み殺そうとしてくるのが主な攻撃。ただ、少年が巨像にとって小さすぎるせいか、時折放心状態になるため矢を放ち巨像の気を惹かねばならなかった。
 あと少しで手の届く段差への到達手段はまだわからない。でもきっとこの巨像の鉈によって破壊された建物の破片がここへ落ちてくるとか、いろんなことを考えながら巨像の出方を待つ。
 巨像は鉈を使いはしなかった。大きな左足で少年を踏みしだこうとしてきたのだ。巨像の動きは鈍く、避けるのは簡単なことだった。それよりも驚いたことは、踏み込んだ床が崩れることなく傾く程度で収まって段差へ登る道が開けていたことだった。巨像が足を戻す前に段差に手をかけよじ登り、さらに上を目指したいところなのに程よい段差がない。巨像は少年を見失ってしまったのか、こちらに体を向けたまま静止している。この2階程度の高さでは話にならない。程よい段差が無いなら作ってもらおうと、2階の隙間から巨像に矢を放った。
 少年の思惑どおりに巨像は2階にいる少年に気付き、ゆっくりと右手を持ち上げ建物ごと破壊せんとばかりに鉈を振り下ろす----難なくそれを避けると建物の一部が崩れ落ち、さらに上へと登れる道が出来上がった。それに摑まって3階へと這い出る。この高さでまだ巨像の胸部が見える程度。4階に上がるとそこは屋上で、ようやく巨像の高さよりわずかに高い位置に立つことができた。
 この建物と向かいの建物は同じ造りをしていて2本の橋でこちらとあちらを繋いでいる。とりあえずすぐ近くの真ん中にある橋まで走り、端っこから巨像の気を引きながら様子を見ていると....あろうことか、巨像は橋をぶち壊してみせたのだ。
 あまりの迫力に呆然としながら、安易に橋の真ん中から飛びつこうと考えなくて良かったと、ぽつりと思った。
 崩れた橋の際に立ち、何本も肩に矢を放って巨像を引き寄せたところで思い切って飛び掛る。なんとか肩の体毛に摑まり頭頂部まで這っていくと、大きな紋様が浮かび上がっていた。容赦なく上下に頭を振っての巨像の抵抗にぐっと耐えながら、確実に巨像の命を削っていく。もうあと一息で倒せそうだというところで、急に紋様は閉じてしまった。



14体目の巨像(2) [ワンダと巨像]

 高台にぶらさがった少年を、巨像は体当たりをすることができず苛立ちながら、高台の周りをうろつき支柱を砕かんとばかりに激突することしかできずにいた。それに耐えながら次から次へと柱から平均台の高台へと渡っていく。最後の柱はこの場所へ最初に足を踏み入れた廃屋への道を開くものになるだろう。...その中へ入って何をすればいいのか、まだ見出すことができずにいたが鍵になるのはこの荒ぶる巨像の「破壊グセ」なのではないか。
 それを胸に秘めたまま、柱に乗り倒されるように仕向ける。少年が描いたシナリオどおりに柱は高い壁を破壊しながら倒される。急いで廃屋の中に飛び込むも、この場所に身を守れる高さのものはない。
 巨像が迫ってくる気配。焦る少年の目にこの地面へ降りるために使った凹凸のある壁が映った。とにかくそこから上へ!それを寸でのところで阻止できなかった巨像は、憎々しげに1階をうろつきながら少年を見ている。一方の少年は凹凸を登りきり2階部分の半壊した床から巨像を見下ろす。...さて、これからどうしたものか。
 長い過程を経てこの廃屋に戻ってきたことに何か意味があるはずだ....何度も柱や支柱に体当たりをしてきたというのに、巨像の鎧は剥がれることなくダメージすら与えられていない。光っていた背中には体当たりの衝撃はとどいていないということか?「破壊グセ」という言葉が頭を過ぎる。いつまでも下をうろついている巨像に矢を放ってみた...。
 すると、余程イラついていたのか、小さな刺激に身を躍らせたかと思うと2階を支えている柱を勢いよくぶち貫いたのだ。支柱を失った2階の床は少年をのせたまま巨像を生き埋めにするかのように落下した....。
 地面に転げ落ちた少年は、しりもちをついたまま瓦礫の山を見つめている。しばらくすると、巨像が瓦礫の中から這い出してきた。その姿は以前より少し小さくなったような? 背中に2階の床が命中したせいで、背中部分の鎧だけがごっそり外れてしまったのだ。勝機を見出せたことに浸っていたかったが、高さを失ったこの場所は危険でしかない。巨像に跳ね飛ばされながら人一人しか通れない通路へと逃げ込む。
 怒りに我を忘れるところがあるようだが、この巨像は賢い。これの背中に乗るためにはある程度の高さが要るだろうし、この隙間を通れないことを悟れば迂回してここへ来るだろう。
 深呼吸をしてから急いで水路を走って地上へ這い上がり、最初に登った倒れた柱に乗り平均台の高台へ。ふぅ、と一息ついたところへ巨像が少年の足元へ駆け込んできた。
 さぁあとはこの巨像の背に乗ることで勝負が決まる。体当たりを仕掛けてきたときがチャンスだろうと、高台から巨像の背中へ矢を放つ。わずかな痛みに身を捩りながらそれを怒りに変えて高台の支柱に叩きつける。少年は意を決して飛び降りる!.....動きが早いはずの巨像は、背中の鎧が外れたせいなのか己の体当たりの反動でうずくまっていたため、華麗に背中へ着地することができた。

 背中への着地を許してしまった巨像は、闘牛のように跳ね回り加速と減速を繰り返して少年の攻撃を必死に阻止しようとする。確実に力を籠めて突き刺したいのに、巨像に振り回され背中に摑まっているので精一杯だ。このままではいずれ振り落とされてしまうだろう。少しでも巨像の動きを何とか止めなければ...。
 跳ねるわずかな隙に浅く剣を背に立てる。....すると巨像は痛みに痺れるかのように動きが止まった。次の一撃には渾身の力で突き刺すことができた。その激痛に悲鳴を上げるも、巨像は痛みに体を一度反り返るだけ。すぐさま剣を引き抜き再び力を籠めて突き刺す。
 これをそのまま繰り返して、少年は荒ぶる巨像を永遠に眠らせた...........。



14体目の巨像(1) [ワンダと巨像]

僕の周りは黒い人影で真っ黒だ。
その数は僕が巨像を倒せば倒すほど増えてゆき、その影はもう足元まできている。
それと対照的に彼女の眠る祭壇には白い鳥がどんどん集まってきている。
まるで呪われていく僕と、祝福されていく少女のようだね。
近くて遠い距離は、望みが叶う手前だというのに今も変わらないとさえ感じてしまうほどに。
たとえそれが真実でも、僕は行くよ。
今の僕は自分の命よりも君が大切だから。
僕は今、君のために「生きている」よ。

 アグロと共に駆け、行き当たったのは洞窟の中の小さな池だった。アグロをそこに残して先へと進む....そこはドルミンが言っていたように滅びた都市の入り口を思わせた。今は誰も訪れることはなく、苔むした廃墟だった。段差から1階へと降りて狭い隙間を抜けると水路に繋がっていて、地上へと這い上がり辺りを見回す。倒れた柱に登って平均台のような細長い台に飛び移り、それをつたって次の台から空高く立てられた柱にひっつき、頂上まで登ってみた。その先にはまだ幾つも平均台のような高台と柱が続いている。地面を移動するのではなく、台の上を移動すると予想すると、この柱が折れて倒すことができるなら、次の高台へ飛び移れそうだ。
 そんなことを考えながら、柱から降りて静かな廃墟の中を下調べする。高台と柱を追っていくと、最終的に最初に入ってきた廃屋への大きな道が作れるようだ。それが何を意味するのかはまだわからないが、やってみればわかるかもしれない。
 下調べを終えて、光が導く先へと向かうことにした。そこは初めに地面に這い上がった場所のずっと奥.....神殿のような建物へと続く長い階段の上で、番犬のように座って待機していた。階段の手前まで近づくとソレは目を覚まし、立ち上がると体をぶるんと揺すってから勢いよく階段を駆け下りワンダに向かって突進してきた。
 慌てて倒れている柱まで戻りよじ登って体を低くする。以前闘った巨像のように体当たりを想定しての判断だった。ドシン!と倒れた柱を転がさんばかりに激しい衝撃に身体がぐらつく。身を低くして摑まっていたおかげでなんとか耐えることができた。
 この巨像は賢いようだ。少年が伏せていては地面に落とせないことを一度の体当たりで覚えたようで、こちらをじっと見つめながらいつでも飛びかかれるように徘徊しながら狙っている。その姿は獰猛な番犬そのものだ。土佐犬のようにがっちりとした体格、それでいて俊敏。全身にゴツゴツした硬くて細々した鎧を纏っている。背中の部分が時々青く光っているようだが、鎧によって守られているようだ。
 伏せているのをやめて立ち上がると、巨像がすぐさま体当たりを仕掛けてくるがいつまでもこのままでは埒があかない。体当たりの衝撃に備えながら次の体当たりまでの間に平均台のような高台に飛び移る。
 高台から高台へと渡り、円柱状の柱に摑まり頂上へ登る。ここは先ほど下調べをしたときにこの柱が倒れれば次の平均台へ渡れそうだと予想していた柱だ。頂上へ登りきったと同時に、ずしんと柱が揺れた。巨像の体当たりが炸裂したのだ。....しかし柱は倒れない。次の体当たりを待つも、巨像は柱の周りを憎々しげに徘徊するのみで体当たりをしてこない。口笛を吹いてみたが、耳が無いのか全くの無反応。仕方なく柱の端まで身体を寄せ、下にいる巨像を見つめ、あまりの高さと弓を構えていて体当たりに対応できるか不安になりつつも、弓を放った。巨像は何かを体に当てられて、びっくりしたように体を跳ねるとすぐにそれが柱の上の少年によるものだと悟り怒りをそのまま柱にぶつけてきた。
 ....柱が傾いていく。ゆっくりと倒れる柱の端に摑まって倒れる衝撃に備えようとするも、それに耐え切れず地面に吹っ飛ばされた。巨像が迫ってくるのを肌で感じ、振り返りもせずに急いで倒れた柱によじ登る。すぐに柱に衝撃が走ったが、ギリギリで耐えることができた。
 次の平均台へは下にある小さな水路をも飛び越えて摑まらなければならない。多少の不安はあるが、柱が倒れることがわかった以上、下調べして立てた案を実行してみる以外に今の自分にこの巨像を倒せるチャンスそのものさえ無いのだ。意を決し、助走をつけて飛ぶ!!......本当にギリギリのところで高台の端に摑まることができた。



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